メインフレーム・コンピュータの歴史 小柳義夫 執筆2002年4月 改訂2003年11月  メインフレーム(mainframe)コンピュータは歴史的な用語で、1960年代以降、 企業、大学、研究所等の組織のあらゆる情報処理を、科学技術計算も事務計算 も一手に引き受けていた汎用コンピュータのことをいう。汎用大型コンピュー タとも呼ばれる。  メインフレームの成立 (1)第1世代:最初の真空管式コンピュータENIACが完成したのは1946年である が、まもなく商用化され、UNIVAC-1は1951年に、IBM701は1953年に出荷された。 このような真空管コンピュータは第1世代と呼ばれる。 (2)第2世代:1955年頃から素子としてトランジスタが使われるようになり、 NEAC2201(1958)、 IBM7090(1958)、 CDC1604 (1958)、 TOSBAC2100(1959)、 HITAC301(1959)、 OKITAC5090(1960)、 FACOM222(1961)などのコンピュータが 開発され、証券会社、商事会社、保険会社などに納入された。これを第2世代 という。このころまでは科学技術計算用と事務計算用とに区別があり、前者で は浮動小数演算が、後者では十進演算が主として用いられるなどの違いがあっ た。 (3)第3世代:しかし、1964年IBMがICを使った360シリーズを発表し、科学技 術用・事務用を問わず360度の全方位に向けたコンピュータを標榜したことか ら汎用コンピュータの歴史が始まった。IBM360ではファミリー概念が導入され、 同じアーキテクチャをもった小型機から大型機まで用意された。また新機種開 発にあたっても過去の機種との互換性が重視された。各社とも同様な路線を取 り、スペリー社のUNIVAC1108(1965)、ゼネラルエレクトリック社の GE635/645(1965)、富士通のFACOM230(1965)、日立のHITAC 8400(1966)、日本 電気のNEAC2200(1964)、CDC6400(1966)、BurroughsのB8500(1967)、NCRの Century100(1968)、東芝のTOSBAC5600(1971)などが始まった。これらを第3世 代と呼ぶ。これらのシリーズの上位機種が、最初の汎用大型コンピュータであっ た。大型機から小型機までの互換性、さらには後継機種との互換性を重視した 製品体系の観点からメインフレーム・コンピュータと呼ばれる。これ以降半導 体技術の発達により、演算の高速化、記憶の大容量化が進んだ。 (4)第3.5世代:IBMは1970年にLSIを使ったIBM370シリーズを発表した。各社も これに追随したが、日本では、通産省がIBM対抗機の開発を促進するため行政 指導を行って企業連合を構成し、富士通・日立はMシリーズ、三菱・沖はCOSMO シリーズ、日本電気・東芝はACOSシリーズをいずれも1974年に発表した。この うちMシリーズはIBM互換、他は非互換である。このころのコンピュータを第 3.5世代と呼ぶことがある。 (5)第4世代:1980年後半からコンピュータにVLSIが用いられるようになり、 これを第4世代と呼ぶ。通産省は国家プロジェクトとして、富士通・日立・三 菱、日本電気・東芝の2つのグループからなる超エル・エス・アイ技術研究組 合を発足させ、VLSIの研究開発を推進させた。この世代の代表的な機種として は、IBM3090、 FACOM M780、 HITAC M680、 ACOS 2000、 UNIVAC 1100などが ある。これらを超大型コンピュータと呼ぶこともある。この時代が汎用大型コ ンピュータの最盛期であった。またこの頃、同じ半導体技術を用いて、 IBM3090 VF、 FACOM VP200、 HITAC S810、 NEC SX-2 などのベクトル計算機 も製作された。これ以後汎用大型コンピュータ・ベンダの整理統合が進んだ。  ダウンサイジング  汎用大型コンピュータは多数のチャネルを実装し、入出力機能が充実し高い 信頼性を保証していたが、初期費用も維持費用も高価で他社との互換性がなかっ た。汎用大型コンピュータを最初に脅かしたのはミニコンピュータである。最 初のミニコンピュータはS.クレイの作ったCDC-160(1960)と言われるが、商業 的に最初に成功したのはDEC社のPDP-8(1965)であった。ミニコンピュータは従 来機との互換性にこだわらず安価に製作され、種々のインタフェースがオープ ンであったため、工場の自動制御、研究のデータ収集、事務処理などに使われ た。初めは、汎用小型コンピュータの下に位置づけられたが、半導体技術の進 歩により次第に性能が向上し、汎用大型コンピュータに劣らない性能を持つも のが現れた。特に性能の高いものをスーパーミニコンピュータと呼ぶこともあ る。  さらに、1980年代に入ると汎用マイクロプロセッサの進歩が著しく、ワーク ステーション、パーソナルコンピュータの性能が急激に上昇し、価格が下落し た。そのためこれらが急速に普及し、個人単位で利用して多くの情報処理を行 うようになった。汎用大型コンピュータと比べて価格性能比がはるかに安く、 操作性もよいので、従来汎用大型コンピュータでなされていた多くの処理が卓 上でなされるようになった。これをダウンサイジングという。  現在の汎用大型コンピュータ  現在のコンピュータシステムは、メインフレーム・ワークステーション、パー ソナルコンピュータを適材適所に使って構成されるようになってきた。汎用大 型コンピュータは、高信頼性、高速・大量処理の特長を生かし銀行のオンライ ンシステムや、みどりの窓口などの座席予約システムに使われる。また、ネッ トワークコンピューティングの中で、データを集中的に管理する基幹サーバと して使われ、インターネット管理サーバなどとデータやプログラムの共用・連 携がサポートされる。高速・大量処理や高信頼性を実現するため並列処理機構 を強化し、ホット・スタンバイやロード・シェアのサポートが行われている。 さらに、低価格を実現するため90年代半ば頃から汎用大型コンピュータにも CMOS技術を適用し、水冷方式と合わせて上位機種へ適用している。  IBMは、1994年に従来の水冷機から省エネルギーCMOS機へと転換、S/390並列 サーバー 9672シリーズとして第一世代CMOS機(G1)を出荷した。以来G2(1995)、 G3(1996)、G4(1997)、G5(1998)、G6(1999)と毎年新世代機を開発している。ま た2000年には最初の64bit 新シリーズz900を開発し出荷、2002年には中型機の z800と大型機z900ターボを追加している。富士通は、中大型機として GS8400(1995)、大型機としてGS8500(2000)、8600(1996)、GS8800 (1998)、 GS8900(2000)を出荷している。日本電気は、ACOS-4シリーズとして S3600(1990)、S3800(1990)、S3900(1991)、パラレルACOSシリーズとして AX7300(1994)、PX7500(1994)、PX7800(1994)、PX7900(1996)、i-PX7600(2000)、 i-PX7800(2001)を出している。日立は、並列大型機MP5800 (1995)、 MP6000(2000)、中型機MP5600 (1996)、MP5600EX(2000)を出している。MP5800 がバイポーラCMOSを用いている他はCMOSプロセッサである。2002年には64bit の中大型機AP8000シリーズを出荷した。 --------------------------------------------------------