初出 2006/9/1
改訂 2007/8/15
 
ISC2006報告
(http://olab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~oyanagi/reports/ISC2006.html)
 
小柳義夫(工学院大学情報学部)
 
 
 
1.はじめに
 昨年までハイデルベルクで開かれていたISC (International Supercomputer Conference) は、2006年6月27日から30日まで旧東ドイツのドレスデンの国際会議場で開かれた。今年はドレスデンの建都800年にあたる。エルベ川の真珠と呼ばれるドレスデンは世界遺産にも登録され歴史そのものの街である。1945年2月の大爆撃で完全に破壊されたFrauenkirche(聖母教会)は60年後の昨年再建が完了し、日本のテレビでも紹介された。破壊された破片を全部保管しジズソーパズルのように組み立てたということである。それでも欠けたところは新しい石で補填したので、外からはモザイクのように見える。招待講演の記念と言うことで腕時計をいただいたが、文字盤の左側に「鼻くそ」のようなものが付いていた。何かと思ったら聖母教会の破片とのことである。
 
 ハイデルベルクの古色蒼然とした会議場は、雰囲気はあるが狭く、パラレルセッションもできないし、展示スペースもとれないので、ここに移したとのことである。確かに物価は安い。次回ISC2007も2007年6月26日から29日までここドレスデンで開かれる。
 
 今回参加者は800人を越えたということであるが、広い会場は空席だらけでとてもそれだけの人がいるとは見えなかった。市内の見物にも出かけているのだろうか。
 この会議の委員会には、下記の日本人が協力している。
Program Committee 三浦謙一(NII, NAREGI)、佐藤哲也(ES)
ISC Award Committee 関口智嗣(AIST)
 1945年2月の爆撃直後(上)と、現在(下)のドレスデン中心部をエルベ川から南に見たパノラマ写真が絵はがきになっていたので下に示す。右端はオペラハウスのSemperoper、中程はZwinger宮殿(博物館になっている)、左は宮廷教会(カトリック)。2005年10月に再建されたFrauenkirche聖母教会(プロテスタント)は宮廷教会の奥。
 
2.展示
 ISCもSCと同様に展示が盛んである。今年は研究展示と企業展示を合わせて74の展示があった。日本と関係があるのは、NEC、富士通、九州大学であった。
 
3.6月27日(火曜日)
 この日はチュートリアルが3コースあったが、筆者はこの日の夕方着いたので出ていない。
a) Blades--Basics, Innovations and Usabilit for HPC
b) Fucusing and Introducing New Benchmark Initiatives
c) Software Tools to Support Programming and Optimazation on HPC Systems
 
 折からワールドカップがドイツで行われていた。この日は、ドルトムントとハノーファーで試合があり、Microsoft社はEventwerk Dresdenにおいて7:30から11:00までWorld Cup を見ながらのパーティーを開いた。筆者はそこには行かなかったが、食事に出たら街中が浮かれていた。
 
4.6月28日(水)
4.1 開会式
 Prof. Dr. Hans Meuerが開会の挨拶を行った。参加者は800を越え、国籍は33に及んだ(最終的には915人。展示のみの参加者を含む。本会議への登録は半分であろう。)。去年の647人から大幅に増えた。展示は、2400m2に74のブースが出されている。
 Main sponsorsはHPとIntel、sponsorsは、AMD, Bull, Cray, Dell, Fujitsu, IBM, Megaware, Mellanox, Windows CCS2003, Myricom, NEC, ParTec, Platform, Quadrics, SAP, SGI, Sun, Transtec, T Systems とそれぞれのロゴを示した。
 
 
4.2 来賓挨拶
 ザクセン州のState Secretary(州知事?)が挨拶。
 
4.3 Erich Strohmaier (LBNL) "Highlights of the 27th TOP500 List"
 恒例のトップ500の発表と分析があった。
 まず世界一のBlueGene/L (LLNL)に賞状が手渡された。続いて、ヨーロッパ一として、"Bull NovaScale 5160 System" (CEA, France)にも賞状が手渡された。
 トップ10が発表された。
      Rmax   #Proc   前回
1 IBM BG/L 280.6 LLNL 131,072 USA 1
2 IBM BGW 91.29 IBM TW 40,960 USA 2
3 IBM ASC Purple 75.76 LLNL 12,208 USA 3
4 SGI Columbia 51.87 NASA Ames 10,160 USA 4
5 Bull Tera-10 42.9 CEA 8,704 France --
6 Dell Thunderbird 38.27 SNL 8,000 USA 5
7 NEC/Sun TSUBAME 38.18 Titech 10,368 Japan --
8 IBM BG 37.33 FZ Julich 16,384 Germany --
9 Cray Red Storm 36.19 SNL 10,880 USA 6
10 NEC Earath Sim. 35.86 ES Center 5,120 Japan 7
 
 年ごとの変化を見ると、2000年頃トップであったASCI Whiteの性能では、今は500番目である。2009年頃にはDARPAのHPCSが1 PFに達し、2015年頃にはパソコンが1 TFになるであろう。
 並列度の最大最小平均を見ると、97年から最小は1から上昇している。昨年からはBlueGeneのため最大は100000を越えている。平均は1000強。今後どう推移するであろうか。
 製造会社をシステム数ベースでみると、1位はIBM、2位はHPである。性能ベースでみると、1位はIBMで60%を越えるダントツ、次のHPを大きく上回っている。
 大陸別(システム数ベース)で見ると、アメリカがコンスタントに増え、アジアも最近増加しているのに対し、ヨーロッパが減少傾向である。ヨーロッパ内での国別(システム数ベース)では、かつて50を越えていたドイツが急激にシェアを減らしている。1位はフランス。アジア諸国では、日本が93年の110以来現象を続けている。中国の増加が著しい。
 アーキテクチャをシステム数ベースでみると、MPPが2001年頃300を越えていたのに対し、今回は100まで減少した。クラスターの増加が顕著である。これを性能ベースでみると、若干傾向が違う。クラスタは増加しているが、MPPも最近持ち直している。
 プロセッサで見ると(システム数ベース)最大はIntelで、次はPower、AMDが急速に増えている。
 相互接続(システム数ベース)では、現在GigEが半分以上で、次がMyrinet、Infinibandも多くはないが増加している。性能ベースで見ると、GigEは1/4程度である。
 
4.4 Peter Zencke, SAP AG "From Transaction Processing to High-Performance Business Computing (HPBC)"
 
 この日の基調講演はビジネスにおけるHPCであった。SAP AGは2005年の営業では総収入8.5b euroで、33200以上の会社がSAPのビジネスアプリを利用してる。アプリとしては、Analtics, Financials, Human Capital Management, Value Generation, Support, Corporate Services, Solution and Integration Platformなどの領域にわたっている。ホスティングとしては、16000台以上のサーバを制御し、500以上のSAPやお客様の システムを走らせ、100 TB/日以上のバックアップを行い、メイルは1日当たり2.2M、一秒当たり1200hitsをサポートし、4カ所のデータセンタを運営している。
 企業のコンピューティングには3つの段階がある。第1世代はreal time computingである。第2世代はThe Integrated, Yet Distributed Enterprise である。第3世代は、The Global Enterprise in Value Networks である。スーパーコンピューティングと比較すると、
  Supercomputing Business Computing
計算 complex trivial
アルゴリズム challenging simple
データ処理 low volume high volume
データ記憶 main memory database
スケーラビリティ important challenging
ユーザ limited thousands
記憶 given critical
場所 local global
 
 次世代のビジネスコンピューティングは、3分野で技術革新を行う。
1) Reach: より多くの人がソリューションと関わる
2) Integration: より多くのシステムがend-to-end processesで接続される。
3) Flexibility: ITをビジネスの必要に適用するためのより大きな自由度。
美ビジネスは、アプリの進化を引き起こす。Enterprise resource planningからIntra-Enterprise Co-operationへ。そこからCollaborative Businessesへ。そこからVirtual Organizatins (VO)へ。
 第4世代は、Enterprise SOA (Service-oriented Architecture)である。モデルが重要であり、これは
1) Business processes and their orchestration
2) Business process components and their eventing
3) Business objects and their services offering
を含む。
 会社毎の個別のシステムではなく。SaaS (Software as a Service)により、ITが見えなくなる。それは、以下のことによる。
1) 計算リソース、記憶リソースの可視化
2) アプリのライフサイクル管理
3) 柔軟な配備(deployment)に対する選択の可能性
4) ホスティングと自前設備との切り替えコスト最低
 重要なのはセマンティックな技術である。Tim Berners-Leeは"Weaving the Web"(1999)でこう言っている。「もし、HTMLやウェブですべてのオンラインドキュメントが一つの巨大な本のように見せることが出来れば、RDF、スキーマ言語および推論エンジンは世界中のすべてのデータを一つの巨大なデータベースに変化させるであろう。」
 最後に共通のコンピューティング・インフラに向かうのにどうしたらいいか。科学の世界以外で留意すべきことは、
1) システム・アーキテクチャは、ビジネスアプリのコンテキストに適合しなくてはならない。
  -- システムは、何千人のユーザにとって、日々の仕事においてmission criticalである。
  -- ネットワーク化されたビジネスでは、相互運用性は必要である。
  -- TCOがビジネスにとって、キーの関心事である。
 2) 技術の失楽園
  -- より少ない費用で、より多く得るというアプローチ
  -- ITの単純化への世界的な動き
  -- ITの標準化は大きなトレンドである。
  -- 中央集中のコンピューティングは時代遅れ
  -- Software as a serviceは一つの選択肢であろう。
 新しいチャレンジとしては、
1) Real-time concerns
  -- 電気通信システムとの合流性
  -- マルチモーダルなユーザとの相互作用
  -- 実世界の自覚に対するSmart Items
2) データの量、新しい検索とデータのパターン
  -- SOAソリューションによるサービスの提供には応答時間が保証されなければならない。
  -- テラバイトの大量データに対する、より速い分析法
  -- 場所に基づいたデータ照合(location based services)
  -- Streaming data sources (sensors, etc.)
 今後研究すべきことは、
1) リソース管理
  -- ネットワーク・トポロジーを考慮に入れる
  -- データベースと推論エンジン
  -- 長寿命のリソース
2) 基本操作
  -- 現在のワークフロー管理システムとの統合
  -- 自動化された配備
  -- ソフトウェアのライフサイクル管理
3) セキュリティ
  -- 多重化されたセキュリティ・インフラ
  -- 監査、拒否の禁止
  -- 仮想組織(VO)の支援
4) ディペンダビリティ
  -- デザスタ・リカバリ
  -- 自己修復機能
 
 何となく言いたいことは想像できるが、ちゃんとは理解できなかった。