プロジェクトの概要
本プロジェクトは21世紀COEプログラム採択拠点「情報科学技術戦略コア」の一部である.「超ロバスト計算原理プロジェクト」は,「実世界情報プロジェクト」および「大域ディペンダブル情報処理基盤プロジェクト」とともに,「ヘッドクォーター」の統括のもとに活動する「融合プロジェクト」としてCOE拠点プログラム「情報科学技術戦略コア」を構成している.

本プロジェクトは,情報の処理と利用を支える諸計算を外乱に対してロバストなものにするための技術を,分野横断的な原理の形に体系化し,それを実世界情報処理に役立てることをめざしている.ここでカバーする計算は,通常の意味での数値計算や記号計算だけでなく,符号・暗号計算,幾何計算,プログラム計算,確率計算,統計計算,離散計算,制御計算,並列計算などの広い範囲を含み,さらに,新しい計算原理として期待されている量子計算や分子計算も視野に入れている.

プロジェクトの目指すもの

すべての情報処理は,計算に支えられている.しかし,情報化社会の変化が激しいために,情報処理を支える計算の整備がそれに追いつけないでいる.その結果,使っていると途中でフリーズしてしまって動かなくなるソフトウェアが世の中に溢れ,深刻な状態に陥りつつある.

本プロジェクトでは,このような現状を反省し,外乱があっても安定して動作するロバストな計算技術を,さまざまな分野に通用する汎用的・横断的な原理として確立し,それを実世界での情報処理に役立てることを目的としている.ここで対象とするのは広い意味での計算である.情報処理の基本となる数値計算・記号計算だけでなく,確率統計計算,プログラム計算,符号暗号計算,図形計算,離散計算,並列計算なども含み,さらに,新しい計算原理として今後の発展が期待されている量子計算,分子計算なども視野に入れている.

実世界での計算は,さまざまな外乱にさらされている.たとえば,数値をディジタル化するときの数値誤差,データ収集の際の測定誤差,計算素子や通信路がもたらす物理雑音,ソフトウェア作成などにおける人的ミス,確率的現象が本質的にもつ不確定性などがある.人が悪意をもって計算を妨害しようとするのも,さらに深刻な外乱である.

一方,問題を解くための計算理論は,基本的には外乱のない世界を仮定して,その中で作られている.しかし,そのような無菌理論は,黴菌だらけの現実世界では無力である.これが,計算の不安定性の主な原因であり,動作の不安定なソフトウェアが世の中に氾濫する理由である.この問題を克服するためには,外乱という黴菌に対して抵抗力をもった計算法が必要である.それが,ロバスト計算とよばれる技術である.

本プロジェクトの参加者は,今まで個別の計算と個別の外乱に対してロバスト性を確保するための技術を開発し,蓄積してきている.本プロジェクトでは,それらを横断的に体系化するとともに,総合的に活用して,多様な雑菌のいずれに対しても抵抗力をもった計算法の確立をめざしている.これが,単なるロバスト計算ではなく,「超」ロバスト計算とよぶ理由である.

ソフトウェア制作技術者は,今までは,無菌理論が提供する計算法を,抵抗力をもった計算法に書き換えるという作業を自ら行わなければならなかった.しかし,これは困難な作業で,完全な解決は難しく,締切りに追われて不完全なままのソフトウェアを世に出していた.

超ロバスト計算原理の確立によって,世の中は次のように変わるであろう.超ロバスト計算原理に基づいた計算法は,黴菌に対する抵抗力をすでに持っているため,そのままコンピュータ言語に翻訳するだけで,安定な動作が保証されている.したがって,ソフトウェア制作技術者の負担が減り,ソフトウェアの生産性が向上する.さらに,それを使うユーザに対しても,今までとは違ってフリーズしない快適な計算環境を提供できるようになる.

このような情報化社会の姿を実現するために必要なロバスト計算原理の確立が,本プロジェクトのめざすものである.